発狂した宇宙人

書き溜めた短編(S&S)をビヨンドで動画化のご紹介、短編(テキスト版)の掲載その他雑記などのブログです

アイドルの秘密

f:id:Space2020:20201119084527j:plain

 

 江戸川乱歩の作品で屋根裏の散歩者と言うのがある。だいぶ前に面白おかしく読んだものだが、少しばかりそれに似た状況に俺は置かれた。

 どういう事かというと隣の部屋に飛び切り可愛い女子がいて、俺はその女子の部屋を覗くことが出来る。こう書き進めていくと俺が変態じゃないかと邪推されそうだが、俺はストーカーでも覗きが趣味な訳でもない。

 そもそも俺がこのアパートに引っ越してきて備えつけのクローゼットを開けたら、そこに小さな絵がかけてあり、不審に思いつつ、それをどけたら小さな穴があって、隣が見えた。そしてそこにはネグリジェ姿の可愛い女の子が、ベッドで本を読んでいた。

 歳の頃なら十~六、七だろう、目の大きな少女漫画の主人公のような女の子だ。

 俺はびっくりして一瞬眼を遠ざけたのだが、恐る恐るまた覗いてしまった。本来ならすぐにでも大家に報告しなければならないのだろうが、俺はそれをしなかった。好奇心には勝てず、それを秘密にした。だけどこの行為はやっぱりいけない。落ちていた金をくすねれば犯罪になるのと同じ理由で。

 だが俺は彼女を一目見るなり、心がいかれちまった。なんというか全身から発散されているオーラのような魅力に心を持って行かれてしまった。それ以来俺は会社から帰る度に彼女の部屋を覗いた。悪い事とは知りながら。

 偶に彼女が留守だったりすれば、がっかりして凄く心配になったりした。ところがある時、テレビを見ていて彼女が可愛いミニスカート姿で歌っているのを見た。思わずテレビに釘付けになったが、やっぱり見間違いではなかった。

 新人アイドルの古野間恵理というのが彼女の芸名だった。心臓がなぜかドキドキした。嬉しいような、切ないような変な想いが胸にこみ上げてくる。

 それからというもの、彼女の帰りが不規則になっていった。彼女が売れ始めたのだろう、でも俺はとても寂しくなった。彼女の生の身体が見られないと悶々としてしまう始末の悪い俺がそこにいた。

 ある日の彼女の帰りは深夜だった。物音ですぐにわかった。穴から覗くと、その日の彼女は顔が黒ずんでした。とても疲れたようで、まったく覇気がなく息も絶え絶えなのだ。そんな彼女を初めて見て俺の心が痛んだ。疲労困憊も著しい。

 これがアイドルの実情かと思った、売れたはいいが身体はボロボロって感じだった。その頃には彼女は既に売れっ子だったから。

 そして彼女はそのまま寝るのだろうと思っていたが、ベッドの横にあるスタンドの抽斗からなにやら小さな瓶を取り出した。小さな緑色の瓶で、瓶が半透明なので黄色い液体が透けて見えた。そしてそれで一口、唇を湿らした。

 するとどうだろう、こけた頬がピンクに染まり、ふっくらと張りが出てきた。まるでアニメーションを見るようだった。

 極端に衰弱していた彼女が生き返えったようで、前より一層輝いて見える。これにはたまげたが、まあひとまず俺は安心した。だがそう言う事が何日も繰り返されると、今度はその瓶の中身が気になって仕方がない。あの液体はいったい何なのだ。

 正体が知りたくて仕方がなくなった。精力剤? プロテイン? 魔法の薬?

 俺はそれを確かめたくて気が狂いそうになった。そしてあるとき彼女の部屋に忍び込む事に成功した。その方法についてはピッキングによるものだったが、ここでは省略させていただく。

 ともかく俺は彼女の留守中にあの瓶を抽斗から持ち出してしまった。あとで彼女がこまるだろうなんて配慮さえなかった。あの時の俺は酷い男になっていた。今思うと自己嫌悪に陥る。

 そしてとんでもない事態になった。俺はあの夜の事を生涯忘れない。遅い時間に帰宅した彼女はもうフラフラで今にも倒れそうだった。そして這うようにして抽斗を開けたのだが瓶がない。とても深刻な顔になった彼女は次第に狂らん状態になり、喉を掻き毟り始めた。その間にも彼女は部屋中をひっかき回し、ベッドまでひっくり返した。

 だがどうしても瓶が見つからないので、今度は泣きだした。俺はそれを息を殺して覗き穴から見ていた。

 なぜ俺はあの時彼女を救わなかったのか、俺はただ怖かったのだ。瓶を持ち出したのが俺だと知られるのが。

 そしてとうとう彼女は息をしなくなった。仰向けになったきり微動だにしない彼女。

 俺は物凄い罪悪感に駆られ、その翌週にそのアパートを引き払った。そしてホテルの部屋であの瓶の薬を眺め、やがて舐めてみたい衝動に駆られた。とても怖かったが、俺はなにかに突き動かされたようにそれを一口、口に含んだ。そしてごくりとそれを呑み込んだ。

 今の俺は不思議な昂揚感に支配されている。天に昇るようだ。ああ、身体が変化していく、まるで女のようにしなやかに、美しく、愛くるしく。
 

 俺は思わず鏡の前に立った。そしてそこにいる若きイケメンにいかれてしまった。まるで全身から後光がさすようであった。俺はそこでターンをしてポーズを決めた。

 

 

 

                 おしまい

 

 

 

                     ※画像はO-DANからお借りしています

読心術

f:id:Space2020:20201116075656j:plain

 

 

 ★読心術

 

 この能力を持っていたのは優秀な岡田という刑事だった。彼は幼い頃から相手の心を読む事が出来た。最初は相手の心をずばり言い当てて薄気味悪がられていたが、彼が成長すると共にその能力はカモフラージュされ、不用意に語られる事はほとんどなくなった。

 

 相手の心を見透かすのはあまり気持ちの良いものではないし、相手も驚いてしまう。しかし彼は世の中の不正が許せなかった。なんとか自分の能力を生かして社会に貢献できないかと真面目に考えた。

 

 彼は容疑者の心を読み白か黒か的確に判断した。凶器の隠し場所、犯行の動機、共犯者の有無等を知り、事件解決に役立てる事が出来た。

 

 素晴らしい成果だった。彼の担当した殆どの事件に迷宮入りは無くなった。どんな難事件も読心術を駆使して解決してしまった。やがて彼の名は日本中に知れ渡った。ちょっとした有名人である。日本各地から事件の依頼が殺到した。彼は凶悪な事件から次々に解決して行った。警視庁から表彰され人々から感謝された。国民栄誉賞まで貰う事ができた。

 

 しかし、暫らくして悲しいニュースが茶の間に飛び込んで来た。彼が職務質問中に容疑者に撃たれて殉職したというのだ。

 

 岡田の仲間は驚き落胆した。世間が岡田刑事に同情した。目の前の希望の光が消えたようなそんな感覚だった。

 

 警視庁刑事課の一室で彼の同僚達がこんな会話を交わしていた。

 

「なぜ彼は職務質問の最中に撃たれたりしたんだ。理解できないよ。あいつはいつだって相手の心を読めたはずだ。殺人の意志をあいつが読めない訳がない」

 

 悲しそうな顔で痩せた刑事がそう言った。

 

「そうともあいつは慎重な男だった。だいたい銃を所持しているのが彼に読めないわけが無いんだ」

 

 もう一人の小太りの同僚が答えた。そこに警察署長がやってきて実に残念そうに言った。

 

「そうだとも。彼に読めない心なんて無い。彼を撃ち殺した犯人はきっと花畑を優雅に飛ぶ蝶のことなんぞ考えていたんだろう」

 

「なんですって。犯人は蝶のことを考えながら銃を撃ったと言うのですか?」

 

「その通りだよ」

 

「そ、そんなばかな。それじゃ犯人は頭がおかしいか。気違いじゃありませんか」

 

「そうなんだ。犯人は気違いだったんだ。だから殺気を読めなかったんだ。犯人は捕まった時、蝶を捕まえたと言ったそうだよ」

 

 彼の読心術は相手が善人であれ悪人であれ、正常な思考をする者に限られていた。常軌を逸した者の心は彼にしても読みきれないのだった。



                 

                おしまい

分身

f:id:Space2020:20201116075656j:plain

 

   ★分身 

 

 この能力に恵まれたのは若き報道記者だった。報道関係の仕事はあまりにも忙しく、極度の煩雑さが彼にこの能力を獲得させたものと思われる。

 

 体がもっと欲しい……。と彼の切なる願いが天に通じたのか或いは彼がそういうDNAを最初から持っていたのか、はたまた突然変異なのかその辺は全く分かっていない。

 後年彼は科学者達の恰好の実験材料となるのだが、その話はひとまず置いておき分身の結果彼がどうなったのかだけ述べよう。

 

 彼は自分を三人に増やした。その内訳を言うと現場リポーターに一人、事務所での記事づくりが一人、夜討ち朝駆け用に一人。

 

 彼は自分を三倍にする事で仕事を精力的にこなしていった。しかし予想外の困った事態に直面した。彼がもう一人にこう言ったのが事の始まりだった。

 

「君さあ僕のために一生懸命働いてくれて本当にありがとう。とても君が僕の分身とは思えないよ」

 

 この言葉に意外な返事が帰ってきた。

 

「あれっ? おかしな事を言うね。礼を言うのは僕だよ。君が僕の分身じゃないか」

 

 この会話をきっかけにして事は収集が着かない程こじれた。三人が三人とも自分こそ本物であり他の二人は分身だと信じていたのだ。こうなると仕事どころではなくなった。三人ともノイローゼになってしまった。医者に行けば三つ子なんでしょと言われるし両親でさえ見分けがつかない。

 

 仕事が手に付かなくなった三人は一時仕事から離れ、三人で田舎に帰り誰が本物であるか真剣に考察した。しかしいくら悩んでも結局らちがあかない袋小路だった。三人はいつしか考えるのに疲れはて挙句のはてに彼らは突き抜けた。

 そして ~別に誰でもいいじゃない~ という安易な結論に達し三人は仕事に復帰した。そしてまさに超人的に仕事をこなしていった。

 

 しかし報道部は甘くなかった。給料も三倍になったが仕事もまた三倍に増えていたのだ。結局彼は今も極めて忙しそうに仕事をしているらしい……。

 

 

 

 

                おしまい

不死身

f:id:Space2020:20201116075656j:plain

 

 ★不死身

 

 長年の日常生活の楽しみを犠牲にして博士はついに不死身の薬を作りあげた。この薬の効能が人類に計り知れない恩恵をもたらすのは間違いのないところだろう。

 

 早速博士は実験を始めた。まずは原始的に腹にナイフを突き刺してみたが、血は一滴も出ずナイフは自然に体から抜け、見る間に傷口は修復された。

 次に燃え盛る炎の中に身を投じたてみたが火傷一つしない。今度は嫌がる助手にピストルで撃ってもらったが、胸にあいた風穴はものの見事に修復され跡形さえ残さない。博士は不死身なのだ。

 

 最後に博士は絶壁から海に飛び込んでみた。やはり博士は死ななかった。コンクリートみたいな海面に身を打ち付けられても博士は平気なのだ。

 しかし困った事が起こった。博士は泳げないのだ。博士は見る間に波にさらわれ、やがて行方不明になった。

 捜索は懸命に行われたが、時間と費用が際限なくかかったので仕舞いには『どうせ不死身だ。死にゃしないさ』と早々に打ち切られてしまった。

 

 博士は今でも太平洋のどこかで溺れ続けている?  らしい。

 

                      

 

                  おしまい

宇宙からの通信

f:id:Space2020:20201115170835j:plain

 

 ある時、宇宙からの通信を高原にある巨大な電波望遠鏡群がキャッチした。

 その信号には規則性があり意図的なものである可能性が高くなり、世界が動揺した。もしそれがその通りなら、ついに……。

 そしてその信号は最新鋭のSコンピュータによって解析され、宇宙語の存在を科学者たちは確信したのである。

 だが、その言葉の順序が逆さまなのである。主語と述語が逆、などというレベルではなかった。回文だという科学者までいたが、確かにそれに近かった。

 つまり真逆に読まなければ成立しない言葉なのである。
 
 科学者達はその通信に倣って電波の発信源に向かって友好と歓迎の意を逆さま言葉で送り返した。

 そしてその意向を受取った彼らが地球に降り立った時、その奇妙さは極まったと言っていい。

 なぜなら、人間そっくりの彼らは皆、逆立ちして歩いていた。

 

 

 

                 おしまい

 

 

 

 

                   ※画像はO-DANからお借りしています

ニアミス

f:id:Space2020:20201113211616j:plain

 

 ――ある時、アタカマ砂漠の標高約五千メートルの高地に建設された巨大な電波望遠鏡の群が宇宙からの電波を受信した。

 

 それは極めて人工的な規則的な波形を描いていて、銀河の果ての小惑星から送られてきたものだった。

 

 即時専門家の解析が開始され、あらゆるデータが照合され、地球外生命、それも知的生命の存在が予測された。

 

 調査を進める程にその電波は人工的で故意に作りだされた可能性が大きくなった。

 

 まさにロマンであり、研究者たちは体に震えが来るほどで、オズマ計画でさえ宇宙人からのラブレターを受け取れなかったのだから、その衝撃は並み大抵の物でなかった。

 

 そして論より証拠と言う人類の古典的な考えに基づき、銀河の果てまで有人宇宙船が飛ばされた。なんと何十年もかかる船旅に人類はついに旅立ったのだ。

 

 やがて宇宙飛行士達はその小惑星に予定通りに降り立ったのだが、彼らを待ち受けていたものは大きな落胆であり、人生の全てを懸けるには物足りないものだった。

 

 その惑星に聳える標高一万メーターを超える山々の岩石には、自然に強い電波を放出する特性があって、それは規則正しい波形を描いてはいたが人工の物ではなかった。

 

 彼らは仕方なくその岩石の一部を採取すると、寿命の尽きないうちに大急ぎで地球に引き返してしまった。

 

 それから一分と経たないうちに彼らはそこに降り立った。緑色の肌を持つ銀色の宇宙艇の連中だ。彼らは二本足歩行をする生物で人間に驚くほどよく似ていた。

 

 彼らもまたその岩石を見上げ深い溜め息をついた。そして実に残念そうな表情を浮かべると、その岩石の一部を砕いて集めると、それを持ってそそくさと無限の宇宙に飛び去ってしまった……。

 

 

 

 

                 おしまい

 

 

 

 

                                                                           ※画像はO-DANからお借りしています

 

 

 

                    

 

調査

f:id:Space2020:20201113082901j:plain

 

 ――あるとき遥か宇宙から宇宙船が地球に偵察にやって来た。

 

 目的は何かというと、地球の生物が宇宙連邦の脅威になるかという調査の為だ。もちろん現時点の話ではなく、将来での話である。

 

 もし地球の知的生命が将来宇宙の秩序を乱したり、戦争を引き起こし兼ねないと判断したなら、即刻その芽を摘んでしまう。それが彼らの偵察の目的だった。

 

 そう、過去には凶悪な種族が宇宙に存在し、それを排除するために彼らは多くの犠牲を強いられた経験があった。それ以来、悪い芽は早めに摘んでしまえというのが彼らの常套的じょうとうてきな考えになっていた。 

 

 宇宙連邦は全宇宙の知的な生命の集団である。そこに所属する知的生命体は、みな平和的で秩序があり、宇宙の平和と協調を実現していた。

 

 さっそく調査員の手によって地球の知的生命がじっくりと調べられた。彼らはそのベテラン達であり、慣れた手順で生命の身体や頭脳、遺伝子等が徹底的に調べらあげられた。

 

 そしてようやく結果が出て調査員が連邦議会にこう報告した。

 

「ご安心ください。この惑星の知的生命は実に平和的でやさしい心を持っております。やむなく戦うのは敵に家族や仲間が攻撃された時のみで、自らの欲望によって戦う事など皆無でして、本当に賢く、おとなしく真面目ですばらしい生命であります。また容姿も非常にチャーミングで愛すべき種族であります。このままにしておきましょう」

 

 連邦議会から返事が返ってきた。

 

「それは良かった。本当に良かった。それを聞いて安心しました。では引き上げましょう……。 ところでその生命は地球ではなんと呼ばれているのですか?」

 

「はい。確か……  イ・ル・カです」

 

 そう報告する調査員の尾びれが嬉しそうに上下に動いた。

 

 

 

                 おしまい

 

 

 

                    ※画像はO-DANからお借りしています