神は死んだ…
太古の事。
嵐、地震、旱魃、これらは全て神の怒りであり、豊作、大漁、これらは神の恵みであると人々は信じていた。
ある年、とんでもない嵐が集落を襲った。これまでにない魔物のような黒い風が家々を吹き飛ばし、濁流は狂気したように人々をのみ込んだ。打ち付ける雨は槍のように鋭く、容赦なく橋を破壊した。
嵐の去った後、人々は絶望に打ちひしがれた。特に家族を失った者の落胆振りは眼に余るものがあり、子を失い途方にくれる母の痛々しい姿を正視出来る者など誰も居なかった。
状況は悲惨であり、被害は甚大であった。改めて人々は、神の怒りの計り知れない恐ろしさを実感させられた。
人々は巨大な祭壇を造り、二度と神を怒らせまいと、様々な貢物をそなえて神に祈った。その貢物の中には麗しい生娘まで入っていた。
それ以来災害はやって来なくなった。貢物がいつの間にかなくなっていた。集落の長(おさ)は、これは貢物を神が喜んで召し上がり、神の怒りが治まったのだと解釈した。そして皆を集めて貢物を絶やさぬようにと演説までした。
するとそこに一人の青年がやって来た。
飄々とした雰囲気を持つ青年だった。
「もういい加減に貢物はいりませんよ、生娘なんて差し出す必要はありません。もう嵐だって来ません」
青年は長に向かって涼しい顔をしてそう言った。
長はいぶかしげな表情をして青年を睨みつけた。
「馬鹿を言うな。貢物のおかげで神の怒りは治まったのだぞ。わしは更なる貢物を考えている最中だ」
長が威厳のある声でそう言った。
「まったく馬鹿げている」
青年が遠慮もなく言い放った。
「僕が貢物の鶏肉の中に毒をもりました」
長の顔がみるみる蒼くなった。雷に撃たれたような顔だ。
青年は平気な顔で続けた。
「牛百頭は殺せる猛毒ですよ。さすがの神だってもう死んだに違いない」
おしまい
※画像はO-DANからお借りしています
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