発狂した宇宙人

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悪魔就職する

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  その悪魔は自分の奇抜な発想に多少酔っている節があった。そう、彼こそは醜悪で怖い顔に密かな笑みを隠したあの魔族の代表である。

 昨今は地獄コロナの影響もあり、悪魔の仕事がめっきりと減った。それに最近の人間たちは自己中が多く、地獄に落ちてきて悪魔となる者の数が増え、その結果、魂を集めると言う仕事が過当競争になってしまったのだ。魂集めの市場は確かに拡大しているのだが、個々の仕事は逆に減っているという始末だ。

 そこでその悪魔は人間界で仕事を見つけようと思い立ったのだ。奇抜極まりない発想だから地獄の君主ベルセブブやサタンがどんな顔をするのかは判らないが、もともと悪魔の神経は極太で他者がどう思おうと意に介さないのだ。

 逆にそれは悪魔の歴史が始まって以来の事だから、誰もが俺の行動力を認めてくれるに違いない――。その悪魔は勝手にそう思った。また悪魔は何もしないと言うことが苦手だし、誰かを不幸にしなくてはいられない性分なのだ。

 人間界は遠いようで近い、実は地獄は人間界に並行して存在している。次元の隙間を通るならば僅か数分で行き来できるのだ。

  悪魔は高級なスーツをあつらえ早速面接会場に向かった。二次面接である。実を言うと悪魔は既に書類選考で三十社あまりの企業ではじかれていた。なにしろ履歴書の学歴欄に魔王大学院で学ぶと記し、資格蘭には魂の管理資格を保有するとし、自己PRのスペースには私に出来ないことなどありませんと書いたのだから、無理もなかったかもしれない。

 しかし悪魔の採用に前向きな企業がたった一社だけあった。それは某地方テレビ局で最初は悪魔太郎の名を見て面食らったが、好奇心旺盛なプロデューサーの高橋は何かしらの鼻を効かせ面接の運びとなったのだ。もしかしたらタレントとしての起用も有り得ると踏んだのである。

 悪魔が上等の黒いスーツを着て面接官の前に座った。面接をするのは高橋をはじめ、テレビ局の幹部連中計5名であった。

「志望の動機は……」という質問に悪魔は自信に満ちた表情をつくってこう答えた。

「仮に私が御社に入社できれば、この小さな貧乏くさい地方局を、世界一のテレビ局にしてさしあげましょう。私は何でも一番でないと気が済まない」

 幹部連は顔を見合わせて驚いていた。

「それは、素晴らしい動機ですが。その具体的な方法についてお聞きしたいものですねえ」

「それは魔力です。私は魔族ですよ」

 ここで面接官の質問は途切れてしまった。四人は悪魔の採用を見送ろうとしたが、高橋のたっての頼みで一ヶ月の試用期間が設けられる事になった。

 

 ――高橋の思惑は的中した。悪魔の活躍は目覚ましかったのである。あらゆる番組を制作し、想像し、創作した。悪魔は素晴らしいクリエイターとしての素質を十二分に持ち合わせていたのだ。彼の眼は生き生きと異様に輝いていた。

 例えば、『地獄のジェットコースター』はゲーム番組で大掛かりなジェットコースターのセットが建設されて、問題に答えられないものは容赦なく地獄の血の池に叩き落されるという嗜好だったし、『死ぬまで歌え』はとにかく知っている歌を岩山のセットの中で歌い続け、歌えなくなったものは岩の影から出て来る鬼に食われるという番組だった。中でも圧巻は汚職政治家とそれを告発する視聴者が命賭けで行うロシアン・ルーレットでの対決ショーだった。

 六連発の銃に一発の弾をこめて交互に打ち合うのだ。番組名は『くたばれ、悪党』で、息をもつかせぬ演出で高視聴率をたたき出した。

 安心してほしい。これらの番組の中で実際に人が死んだわけでなく、すべて演出であった。しかし、視聴者の中にはそれを本気で受け取り、心臓発作で亡くなる者まで出る始末だったし、残酷だというクレームは後を絶たなかった。にもかかわらず、悪魔の製作したテレビショーは高視聴率が続き、お化け番組が誕生したのである。

 国民は番組の悪口を言いながらも、その番組に魅入られ、吸い寄せられ、子供は早く寝かしつけられて親達は手に汗を握って番組に没頭したのである。その番組の放送される金曜の晩は誰もがリアルタイムで会社員は残業もせず、それを見続けたのである。

 

 しかし、まことに残念なことに悪魔はテレビ局をまもなく解雇された。人を飽きさせないお化け番組は終りを告げたのだ。

 なんと悪魔はスポンサーからの謝礼を魂で徴収してきたのである。慣習とは恐ろしいもので悪魔は金銭には異様なほど淡白で、魂のみに価値を見出していたのだ。そのおかげで一流企業から大勢の死人が出てしまった。それでも周りは彼が本物の悪魔だとは夢にも思わなかった。だから幹部連が顔をしかめ、奴はまるで悪魔みたいだと言ったのが印象に残る。

 

 悲嘆にくれたのは高橋プロデューサーであった。彼はしばらく呆然として仕事さえ手につかない状態であったが、数週間の休養をとって見事に職場に復帰した。

 しかし高橋が新たな採用希望者の履歴書の中から天使ミカエルの名を見たときは、たいそう驚いた。

 志望の動機欄には世の為、人の為と書かれており、特技は浮遊だそうだ。

 高橋はその履歴書をしばらく眺め、一瞬考えていたが、

「もう懲りたさ、勘弁してくださいよ」

 

 ――と溜め息をつき、その履歴書をまるめてごみ箱に放り投げてしまった

 

 

 

                     おしまい

 

 

 

 

 

 

 

                                                             ※画像はO-DANからお借りしています