宇宙人とピカソ
ある時、宇宙人が私のもとにやってきた。まったく予期しない出来事だったので、私は途方にくれてしまった。なんで宇宙人が個人的にアパートに来たの? 疑問はつきない。
役所に相談しようかと思ったけれど宇宙人が秘密にしてくれと言うのでお人好しの私は困った。そしてとりあえず秘密にすることにした。
宇宙人は大きな黒目におちょぼ口、そして穴だけの鼻。あの宇宙人、グレイの特徴を見事に備えていた。画学生である私は興奮しっぱなしだったけど宇宙人に訊きたいことが頭の中にはち切れそうになって、口から様々な疑問が堰を切ったように飛び出した。宇宙人は意外なほどそれの一つに一つに丁寧に答えてくれた。
話すうち私はきのう画学生仲間で話題に出た宇宙人は美、或いは芸術を理解し得るか? という訳のわからない疑問を思い出した。
そして私は積極的にピカソの画集を本棚から引っ張り出し、抽象画の裸婦を宇宙人に見せた。そして言った。
「ねえ、この絵があなたにわかる? 偉大な芸術よ」
宇宙人は驚いた様子でその絵をじっと眺めたていたがおおいに感激したらしい。ため息とも感嘆ともつかぬ叫びに近い声をあげた。
私は改めてピカソの偉大さを実感した思いだった。この天才は宇宙人をも魅了できるのか。私は嬉しかった。私も抽象絵画を描いていきたいから。すると宇宙人がそっと私に囁くように耳打ちした。
なになに、このモデルは好みだから紹介してくれだって!!
ところで私はなんで宇宙人の言葉がわかるのだろう?
このさい、あまり深く考えまい……。
おしまい
※画像はO-DANからお借りしています