発狂した宇宙人

書き溜めた短編(S&S)をビヨンドで動画化のご紹介、短編(テキスト版)の掲載その他雑記などのブログです

夢の中の記憶 2

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 第二日目の記憶

「田辺さん。やっと会えましたね。職は転々とされるし住所だって何度も変えられた」
 

 夢の中で馴れ馴れしく太田青年がそう言った。若い割には落ち着いた声だが、ややトーンが高い若者特有の声質だ。二十歳前後だろう。白いワイシャツとジーンズ姿をしている。アンバランスだがそれなりに似合っていた。青年はやや色白だが、端正な顔立ちをしている。身長は170センチ位だろうか。 

「何を言うんだ。今の職はもう永いし、引越しはもう十年来していないよ」 

 私は否定するが青年の表情は変わらない。
「大体君は誰なんだい? 私は君を知らな……」
 そこまで言いかけて自分でも驚愕する事がまたも起こった。
「久しぶりだね太田君じゃないか。私をずっと探してたんだね」
 予想外の私の台詞。私の中に夢の記憶が蘇ってきたのだ。
「勿論です。例の事が気になって田辺さん探すのに苦労しましたよ」
「例の事って」

「なんですか… とぼけないで下さいよ」
 場所はかなり大きなホテルのロビーだ。天井にはシャンデリアが下がり、床は鏡のような大理石だ。中央に女神のブロンズ像があり、花々に溢れている。その片隅の革張りのソファに私と青年が座っている。
 休憩時間らしい。薄いブルーの作業服を着て、十年以上前に辞めたショートホープを燻らす私。
「田辺さん。奴を殺したんですか?」
 恐ろしい言葉が平然と青年の口から語られた。
「いや、まだだ。これから殺す」
 吐き捨てるような私の言葉。自分ではないようだ。
 

 そこで私は目覚めた… 一瞬にして体内に氷魂が生じたように、薄暗い部屋でただ呆然と天井を見つめていた……。  

 

 

                     つづく

 

 

 

                  ※画像はO-DANからお借りしています