発狂した宇宙人

書き溜めた短編(S&S)をビヨンドで動画化のご紹介、短編(テキスト版)の掲載その他雑記などのブログです

夢の中の記憶 3

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 第三日目の記憶

 仕事帰りの私は重い足取りで歩いていた。空に黒雲がかかっていた。雲の深淵から黄色い閃光がひらめき、マンションの壁に疾風が吹きつけていた。

 ストレスでも溜まって変な夢を見るのか。それにしてもリアルな夢だった。青年の肌の色艶さえ記憶に残っている。夢…… というより映画のような映像だ。おまけにカラーときている。私は仕事中にも時々夢を思い出した。
 自分なりに分析しようともしたが意味不明だ。夢の中の自分に違和感を感じる。確かに殺すと言った。確かに私が言った。 
 嫌だなあ、と思った。今夜も夢の続きを見るのかという予感があった。帰宅すると午後十時を回っていた。管理職になってから簡単に会社から帰れなくなっていた。シャワーを浴び、カレーライスを食べて酒を飲むと、うとうとしてベッドに倒れこむ。すぐに睡魔が襲ってきた。

「田辺さん、聞いていますか? 僕の話」
 指先の感触を肩の辺りに感じる。青年が私の肩を小突いている。
「ああ、聞いているとも」
 夢の中でうつらうつらしていて太田青年に起こされる私。周囲の状況はぼんやりと霞んでいる。
「まだ奴を殺していないんですね。殺さないとまずいでしょう」
「ああ、判ってるよ」
 不機嫌に答える私。
 奴 奴って誰? 即座に夢の中の記憶が蘇ろうとする。しかし現実の私の意識がそれを思い出すのを拒んだ。思い出すのが怖いのだ。  
 私は言いようのない恐怖につかまって、身悶えするように覚醒した。知らぬ間に首筋にべっとりと汗をかいていた……。 

 

 

                 つづく

 

 

                 ※画像はO-DANからお借りしています