夢の中の記憶 7
第七日目の記憶
夢の中でばかげた殺人計画が進んでいる。
有り得ないと思う。夢の住人に物理的な実体がない限り殺人は不可能だとも思う。
だが実に肉迫した夢の映像に心が動揺しないでいられない。夢の最中は実に切実な感覚で脅威が私に迫ってくる。
やはり医者かとも思う。神経症か、うつ病か。
しかし医者に行ってどうなる? と思う自分がいる。精神安定剤を処方してもらってこの夢から逃れられるだろうか? 答えは否だ。自分勝手に答えを出す。そんな甘い夢ではない。
それに精神科のドアを叩く勇気がない。ならばどうする?
私はあらゆる解決策を必死に頭の中に巡らし始めた。なんとかしないといけない。現に仕事でのポカミスも多くなった。不眠症になりつつもある。私は思惟を巡らすうち、ある考えに辿り着いた。
現実の私は確かに存在するが、現実の太田青年は本当に存在するのか? たぶんそんな青年はいない。夢によると青年はホテルのコックだ。この現実でもコックだと言った。ならば確かめよう。現実の太田青年がいないとなれば、この夢の設定は根底から崩れ去る事になる。
そうだ所詮ばかげた夢だと判明する。すべては夢であり、妄想であるとわかれば夢を気にする必要などない。忘れてしまえば良いのだ。
今度夢を見た時、私の意識が夢の私に移行する前にホテルの場所を確かめよう。
やがてその日の夜が来た。
夢を見る。青年の登場だ。場所はホテルのカウンターだ。私は出し抜けに青年に問い正した。
「ところで君のいるホテル名前なんだっけ?」
青年の眼が丸くなった。唐突な質問だ。
「何を言ってるんですか、田辺さんあなたが働いていたホテルですよ。麻布のホテルMじゃ、なかったですかね」
ちょっとしたふくれっ面だ。そこで私は身震いをして意識的に覚醒した……。
つづく
※画像はO-DANからお借りしています