発狂した宇宙人

書き溜めた短編(S&S)をビヨンドで動画化のご紹介、短編(テキスト版)の掲載その他雑記などのブログです

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  ――ある日会社から家に帰ると鬼が座っていた。

 

 どうして鬼だかわかったかと言うと、毛むくじゃらの太い腕と原始人みたいな皮の服を身に着けていたからだ。なにより決定的なのが頭の角だった。びっくりして逃げようとしたが自分の家から逃げるなんてる理屈に合わない。

 呆然としたまま、しばらく僕は鬼の様子を見ていたが別段俺に危害を加える気はなさそうだった。少しだけ安心した僕は夕食の支度を始めた。

 鬼はテレビを見ているだけで手伝ってはくれなかった。僕は悩んでしまった。鬼の分も作るべきなのだろうか……。

 ――そんなことを考えるなんて人が良いのにもほどがあるぞ。僕は自分にそう言って自分の分だけ作ろうとしたが、鬼が俺も飯が喰いたいと勝手なことを言うので仕方なく僕は二人分の食事を用意した。

 コロッケとキャベツの千切りが今日のおかずだ。あとは漬物と味噌汁、それに納豆。鬼は黙々とご飯を食べごちそう様も言わなかった。僕は少し腹が立ったがなにも言えなかった。

 鬼は帰る様子もなく畳に横になった。鬼はそれから三日経っても帰らなかった。僕は困った。警察に通報するのは簡単だがなんとか事を穏便に済ませたかった。

 しかし鬼が居座って三日目の夜、俺はずっとこのまま鬼にいられたらたまらないと思い、恐る恐るこう切り出した。

「どうして僕の家にいるのですか?」

 すると鬼はじっと僕の目を見つめた。意外ときれいな目だ。そして言った。

「おめえさあ、この前の節分のとき一人で豆まきしながらこう言ったろ。福は外、鬼は内って!」

「――えええええええーっ! そんなこと言いましたっけ?!」

 

 僕にはそんなことを言った記憶がなかった。おかしい、鬼の勘違いじゃないのか。しかし、鬼の目はまっすぐに僕を凝視していて反論できる状況ではなかった。僕は仕方なく何度か鬼に謝り、

「二度と間違えませんから」と言うと

「まあ一度だから勘弁してやらあ」

 そう言って鬼はようやく家を出て行ってくれた。僕はそれ以来、決して豆まきをしなくなった……。

 

 

               おしまい

 

 

                ※画像は「いらすとや」からお借りしています