なぜか瓶の中にあった金貨
――灼熱の国に魔人がいました。
大きく強大な力を持ち自分の思うがままに生きていました。人間など敵ではありません。人間界を荒らしまわり財宝を強奪し、美女を攫い、人間のつくる最高のご馳走をいつも食べていました。
勇者が何人も彼に挑みましたが、ことごとくが魔人に殺されてしまいました。
人々はなす術もなくただ神に祈りました。
それから幾日か経つと、ついに祈りが通じたのか悪行が神の耳に入りました。神は怒り、魔人を葡萄酒の瓶の中に閉じ込めてしまいました。
魔人は最初、瓶などすぐに割ってやると高をくくっていましたが、どうして瓶は簡単に割れませんでした。神の力は偉大だったのです。
神はぽいと瓶を大海に投げ込むと鼻歌を歌って天界に帰ってしまいました。
永い年月が経ちました。魔人にとってそれは気の遠くなるような、窮屈で屈辱的な日々でした。魔人は不死身なので死ぬ事もできません。
煮えくり返るような激情が何度も魔人の胸中に巻き起こりました。
しかしどうする事もできません。悪行の報いかと反省でもしようかとも思いましたが、魔人は生来、猛々しい気性なので簡単に反省も出来ませんでした。
魔人は思いました。
――誰か、誰でもいいからこの瓶を拾って、栓を抜いてくれまいか。ここから開放してくれまいか。そうしたらその者の願いを何でも叶えると。財宝だろうが、出世だろうが、不老不死だろうが、何でもお望み次第の夢を叶えると。場合によってはその者の召使いにでもなろうと――。
しかし、瓶を海から拾い上げ魔人を解放するものは現れませんでした。
海に投げ込まれてから百年が既に経っていました。魔人は発狂寸前でした。
魔人はまた思いました。
――こんなに待っても誰も助けてはくれないのか。実に忌々しい。こうなったらこの怒りを最初に瓶の栓を抜いたものにぶつけてやる。
その者を八つ裂きにして鮫に食わしてやる。その者だけではなく家族共々皆殺しにしてやると――。
魔人は苦しみの中で半分気が違ってきていました。
そして自分を解放してくれるであろう者への、感謝と憎悪が頭の中でぐるぐる回りだしました。自分でもどうしていいのか判りません。
それからまた永い年月が経ちました。三百年以上の年月です。
ある時、ついにその瓶が海岸に流れ着きました。
たまたま浜にいた青年がその瓶を発見しました。手に取るととても古い茶褐色の酒瓶でした。光にかざし、コルクの栓を取ると大きな魔人が躍り出てきたのです。緑色の顔につり上がった鋭い眼をしていました。
青年は腰を抜かしました。驚いて生きた心地さえしません。すると魔人は、なぜか瓶の中にあった一枚の金貨を空中に高く投げ上げたのです。
そしてその金貨を左手の甲に着地させ、それを右手で隠してこう言ったのです。
「言ってみろ、裏か表か!」
青年は恐怖にかられ、小さな声で仕方なく答えました。
「う……」
おしまい
※この話はリドルストーリーです。結末は読者の胸の内というわけで…
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