発狂した宇宙人

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読心術

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 ★読心術

 

 この能力を持っていたのは優秀な岡田という刑事だった。彼は幼い頃から相手の心を読む事が出来た。最初は相手の心をずばり言い当てて薄気味悪がられていたが、彼が成長すると共にその能力はカモフラージュされ、不用意に語られる事はほとんどなくなった。

 

 相手の心を見透かすのはあまり気持ちの良いものではないし、相手も驚いてしまう。しかし彼は世の中の不正が許せなかった。なんとか自分の能力を生かして社会に貢献できないかと真面目に考えた。

 

 彼は容疑者の心を読み白か黒か的確に判断した。凶器の隠し場所、犯行の動機、共犯者の有無等を知り、事件解決に役立てる事が出来た。

 

 素晴らしい成果だった。彼の担当した殆どの事件に迷宮入りは無くなった。どんな難事件も読心術を駆使して解決してしまった。やがて彼の名は日本中に知れ渡った。ちょっとした有名人である。日本各地から事件の依頼が殺到した。彼は凶悪な事件から次々に解決して行った。警視庁から表彰され人々から感謝された。国民栄誉賞まで貰う事ができた。

 

 しかし、暫らくして悲しいニュースが茶の間に飛び込んで来た。彼が職務質問中に容疑者に撃たれて殉職したというのだ。

 

 岡田の仲間は驚き落胆した。世間が岡田刑事に同情した。目の前の希望の光が消えたようなそんな感覚だった。

 

 警視庁刑事課の一室で彼の同僚達がこんな会話を交わしていた。

 

「なぜ彼は職務質問の最中に撃たれたりしたんだ。理解できないよ。あいつはいつだって相手の心を読めたはずだ。殺人の意志をあいつが読めない訳がない」

 

 悲しそうな顔で痩せた刑事がそう言った。

 

「そうともあいつは慎重な男だった。だいたい銃を所持しているのが彼に読めないわけが無いんだ」

 

 もう一人の小太りの同僚が答えた。そこに警察署長がやってきて実に残念そうに言った。

 

「そうだとも。彼に読めない心なんて無い。彼を撃ち殺した犯人はきっと花畑を優雅に飛ぶ蝶のことなんぞ考えていたんだろう」

 

「なんですって。犯人は蝶のことを考えながら銃を撃ったと言うのですか?」

 

「その通りだよ」

 

「そ、そんなばかな。それじゃ犯人は頭がおかしいか。気違いじゃありませんか」

 

「そうなんだ。犯人は気違いだったんだ。だから殺気を読めなかったんだ。犯人は捕まった時、蝶を捕まえたと言ったそうだよ」

 

 彼の読心術は相手が善人であれ悪人であれ、正常な思考をする者に限られていた。常軌を逸した者の心は彼にしても読みきれないのだった。



                 

                おしまい