招き猫
コウジの家は貧乏だった。父親はリストラに遭い現在失業中だし、母は急な病で働けず、兄弟は多いときている。
――このままじゃ進学もできないじゃないか。なんとか裕福になる方法はないものか。コウジは日夜それを考え続けていた。
ある日コウジは夢を見た。そして夢の中で神様に会った。その神様がずいぶん優しそうな顔をしていたので、ちょっと図々しいとは思ったが「僕を金持ちにしてください」とお願いすると神様は意外なほど素直に「はいよ」と答えた。
貧乏はしていても初参りの時、お賽銭をけちらなかったのが功を奏したらしかった。
神様が言うには、骨董屋で出来るだけ大きな招き猫を買い、富めるものに向けて置いておけば、そこから富を引き寄せてくれると言う。
簡単には信じられなかったが、コウジは言われた通りにする事にした。色々と骨董屋を回ってみて、招き猫を買った。招き猫にも特大の物から小さい物まであり、出来れば大きい物を買いたかったが、お金が乏しいので小さい物にするしかなかった。
コウジはそれを日の丸銀行のほうに向けて置き、日夜、裕福になることを願った。
――夢を信じるなんて僕もどうかしている。コウジがそう思いかけた時、
奇跡は起こった。
まず、なけなしの小遣いで買った宝くじで三千万円を当てた。コウジは全身に鳥肌が立ったが、そのお金を無駄にせず、それを元手にして父や兄と協力して事業を興したのである。
会社名は幸運の招き猫製造販売会社『福猫』であった。福猫でつくった招き猫は売れに売れた。全国から注文が殺到し、瞬く間にコウジは長者番付の常連になってしまったのだ。なにしろコウジは自分の体験をもとに骨董屋で買った招き猫にそっくりな物をつくり、体験談を混じえてネットで販売したのだ。
『私はこうして幸運を招いた。もう、貧乏はやめましょうよ』のキャッチフレーズと共に……。
わずか一年でコウジのあばら家は二十階建ての高層ビルに生まれ変わっていた。
それに引き換え、日の丸銀行の運命は悲惨であった。不良債権が重なり、預金者は激減し、倒産寸前にまでなってしまった。コウジはあまり良い気持ちはしなかったが仕方のないことだと思った。
それからまた一年が過ぎるころ、おかしな事が起こった。
福猫が急に売れなくなってしまったのだ。おまけに詐欺にあい、多額の資金を騙し取られてしまった。
――おかしい? どうなっているのだ。それに最近、日の丸銀行がにわかに活気づいているようなのだ。
コウジと父は日の丸銀行の様子を見に行くことにした。
すると銀行の店先に、いつか骨董屋で見た特大の招き猫がコウジのビルの方角に、でんと据えられていたのだった……。
おしまい
※画像は「いらすとや」からお借りしています