発狂した宇宙人

書き溜めた短編(S&S)をビヨンドで動画化のご紹介、短編(テキスト版)の掲載その他雑記などのブログです

妖怪 腹減り爺

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 これは昔、昔の話じゃ。越後の国によう、腹へり爺という妖怪が住んでおったそうなんじゃ。それでよお、その爺が村の衆をたいそう苦しめたそうじゃ。本当か嘘かは知れぬが、腹へり爺は子泣き爺の遠い親戚に当たるらしいという事じゃ。
 

 この腹へり爺。とにかく食いしん坊でよう、突然山からやって来て村人の家にちゃっかり上がりこんでよ、物欲しそうな、いやらしい目をしてのお。
「腹がへり申した、腹がへり申した……」
 と繰り返すのじゃ。

 

 最初は人の良い村人はよ、仕方なく握り飯をやったり、鍋のものを食わせたりしたがよ。出されたものはいくらでも平らげてよ、まだまだ
「腹がへり申した、腹がへり申した……」
 

 と尚、繰り返すのじゃ、顔はよ、でれーっとした垂れ目でよ、おおきな鼻をして、薄汚れた粗末な服を着てよ、さほど怖い顔じゃないんだが、一度腰を据えたら、その家の食べ物の全てを平らげるまで絶対に帰らんのじゃ。
 

 食い物をやらんと大声で泣き喚き、村人は気が変になりそうじゃった。ある時、血の気の多い若者がよ、鍬で爺を殴りつけた事があるんじゃが、こたえんのじゃ。平気な顔でよ。
「尚、腹がへり申した」
 

 と、こうなんじゃ。ほとほと困り果てた村人達はよ、噂にたかい法力を持つお坊様を頼もうという事になってのう、西の都まで出向いてよ、偉いお坊様を連れて来たのじゃそうだ。じゃがのう、護摩をたき、経文を唱えても、なかなか腹へり爺は弱らんのじゃ、結局最後まで腹へり爺は退治出来なかったんじゃが、なんとかお坊様は二度と腹へり爺に、腹がへり申したとは言わせなかったんじゃ。てーしたもんじゃのう。
 

 おとなしくなった腹へり爺を見てよ、なんでまた食い物を欲しがらなくなったのか、村人がお坊様に聞くとな、お坊様はちょっとだけ笑ってこっそり教えてくれたそうだ。なんでもよ、爺の尻によ、膠(にかわ)をたっぷり塗った栓をしたんじゃと……。
 
                       

 

 

              おしまい… じゃ。

 

 

 

                  ※画像はO-DANからお借りしています