ダークサイドファンタジー
★少年の秘密
夕焼けが綺麗だった。山道から林を抜けると渓流があった。
岸辺に小さな男の子が佇んでいた。近づくとしくしくと泣いている。
「どうしたの?」と私が問いかけると
「僕、おへそが無いんだ」と答えた。
目が大きくて、つるつるした頬をしていた。
驚いて名を問うと「僕は桃太郎なんだ」と男の子が答えた。
★独楽(こま)
道で赤いチャイナ服を着た女の子に会った。
木で出来た独楽(こま)を回して遊んでいる。
面白そうなので暫らく眺めていたが独楽は止まらない。
「すごい独楽だね」
と私が話しかけると女の子が微笑んだ。
「この独楽はずっと止まらないの」
女の子が言った。
「うそっ。いつかは止まるでしょ」
私が言うと女の子が独楽を手に取った。
独楽を割ると中に小さな地球が納まっていた。
「これは止まらない独楽なの。秘密よ」
女の子の瞳に小さな地球が映っていた……。
★ミラー
私は不思議な男の子と会った。鏡とじゃんけんしている。
私は声をかけた。
「ねえ、君。鏡とじゃんけんをしたってずっとあいこだろ」
すると男の子が私を振り返って答えた。
「僕はじゃんけんでいつも鏡に負けるんだ」
「うそっ」
そう言ったが急に鏡とじゃんけんするのが怖くなった。
おしまい
※画像はO-DANからお借りしています
やっぱり病院
N氏は最近、不眠症に悩んでいた。疲れてはいるのにどうしても眠れない。
仕方なしに病院に行くことにした。
ところが病院は凄い混雑。 待てど暮らせどN氏の番が来ない……。
* *
「あのう、N様 さっきからお呼びしてるんですが」
可愛い看護師に呼ばれるN氏。
「あ、ああ。Nは私です。なんか私、寝てました?」
慌てて目を覚ますN氏。
「うふふふっ、はい」
「あ、不眠症、直ったみたいだから私、帰ります」
「はあ……?!」
おしまい
※画像はO-DANからお借りしています
N氏は永年、不眠症に悩んでいた。どうしても眠れないのだ。
仕方なしに病院に行くことにした。
ところが病院は凄い混雑。
待てど暮らせどN氏の番が来ない……。
* *
「あのう、N様 さっきからお呼びしてるんですが」
可愛い看護師に呼ばれるN氏。
「あ、ああ。なんか僕寝てました?」
慌てて目を覚ますN氏。
「うふふふっ、はい」
「不眠症、直ったみたいだから僕、帰ります」
「はあ……?!」
究極の宇宙テスト
――ある晴れた日の午後だった。
空から大きな声がこだましてきた。それは万人に聞こえるような、張りのある心の底まで響くような声だった。
声は様々な国の人々にそれぞれの母国語となってダイレクトに伝わってきた。
「地球人の諸君、我々は宇宙生命体である。諸君のいうところの宇宙人と解釈してもらって一向に構わない。君たちは長い年月をかけてある程度の進化をとげてきた。そして我々のレベルにまでもうすぐ達しようとしている。そこで君達には試験を受けてもらう。君たちの表現を借りて言うなら、これは受験に他ならない。君達人類の宇宙に於いての適合性が試験によって試されるのだ」
誰もが空を見上げたが声の主は姿を見せず、声だけが伝わってきた。
「この試験によって君達は淘汰される。君達人類が宇宙にとって存在価値のあるものかどうかが試される時が来たのだ。この試験に合格すれば将来を約束されるが、もし失格したら諸君の未来はない。尚、この試験は究極の○×式で出題される。出題数は一問のみ、それに正解さえすればよいのだ! もし答えない場合はむろん不正解となるのは常識であろう」
まったく相手に有無を言わせぬ口調、一方的、独善的とも言えるその口調は妙な威圧感を秘めていた。しかし大変な事になった。世界中が大騒ぎだ。大仕掛けのイタズラだとか、神の啓示だとか、気違いの仕業だとか、もっともらしい説がいくつも渦巻いたが、結局なんの用意も対策もないまま、その試験問題はあっけなく出題された。
いつの間にか空に大きな気球みたいなものが浮かんで、それが白い幕のようなものを垂らし、そこに問題が書かれてあった。それが不思議な事にその字はすべての人種が理解できる文章なのだった。そして問題はこうだ。
『宇宙に存在する生命体はどうしてもやむを得ないときは、他の生命体を殺しても良い』
そして声が響いてきた。
「この問題の解答時間は君たちの時間で今から二十四時間とする。それまでに良く考えて回答してもらいたい。尚、回答用紙は所定の場所に置いてあるので○か×を記入すればそれで良い。なにをどう調べても良いから、諸君の英知を集結してこの問いに答えるのだ」
世界が動揺した。たったこれだけの問題だが何を基準として出されたのかもわからない。誰がどう答えるのかが各国の首脳間で議論されたがその議論は長引いた。宗教人は×だと言い、政治家は○だと譲らない。
ありとあらゆる人がありとあらゆる意見を出した。絶対答えるなと言う意見もあった。しかし瞬く間に時間だけが過ぎて行った。そして人類は回答者を一名選ぼうと言う結論に達した。大勢で考えていたのでは時間切れで失格になってしまう。
その任に当たったのが日本の若い大学生で、その理由は単に――受験慣れしているから――だった。
彼がそれを知ったときは気絶しそうになった。それでも仕方なく彼は所定の場所の大きな答案用紙を手にした。残り時間が迫っていた。彼は最初真っ白な答案用紙に○を書いた。そしてすぐにそれを消しゴムで消して×と書き直した。
そしてまたそれを消した。消したり書いたりの繰り返しだ。彼の顔面は蒼白になった。今にも倒れそうだ。心臓は爆発寸前だ。そしてついに時間が来た。
答案用紙を見て宇宙人の声が響いてきた。
「これはどういう意味なのですか?」
「……」
絶句する青年。彼の視線はぼんやりと虚空に注がれていた。答案用紙には△が書かれてあった。世界中の観覧者が絶望的な声を出した。みんな世界が終るのかと思った。その一部始終をテレビ局のカメラがリアルに捉えていた。
「もう一度訊きます。これはどういう意味なのですか?」
「さあ、わかりません。どっちも正しいようなそうでないような、だからどっちつかずの△です」
重苦しい沈黙が長い間その場を支配した。しかし暫らくして宇宙人の思いもかけぬ言葉が返ってきた。
「なるほど、これは気づきませんでした。宇宙広しとはいえ△を書いたのは貴方が初めてだ。良い意味でとても驚きました」
「……」
「今回のテストはなかったことにしましょう。いつの日かまた改めてここに来ましょう。我々は諸君の新しい可能性を知った思いです。ではっ、さようなら」
それきり二度と声はしなかった。人類は救われたのだ。それにしてもクイズの正解は明かされぬままだが、それもまあ仕方がない。
おしまい
※画像はO-DANからお借りしています
進化したそれ
生物の進化を加速度的に速める装置を発明した博士がいた。それは画期的な発明と言えたが、博士はそれを世間に公表しなかった。
装置は大きな円筒形で正面にドアがあり、中に円形テーブルが設置されていた。テーブル上に実験対象を置き、それに特殊光線を当て、著しい進化を促す構造なのだ。
心臓部には量子コンピューターが組み込まれている。もちろん中の様子は透明な覗き窓から見られる仕掛けになって、装置の側面にはダイヤルが複数ついていた。
言うなれば装置は一種のタイムマシンのようなもので一目盛りが約一万年とういう単位で生物を進化させる事が出来るのだ。
既に研究は進み、動物実験の段階に至っていた。
最初に博士が中にマウスを入れて一万年先に目盛りを合わせると、なんと金髪のマウスが出来上がった。それは進化したマウスなのだった。マウスは利口で犬並みか、あるいはそれ以上の頭脳を有していた。
次に猿で実験すると一万年では殆ど変化がないので、十万年に目盛りを合わせると流暢に人間並みの言葉を使う白い猿が出来た。博士は猿との会話に夢中になって時の経つのも忘れたほどだった。
さて、こうなると博士は人間での実験がしたくなった。当然と言えば当然だが、それには恐怖と危険が付きまとった。全身に拒否反応が出て死んでしまう可能性もあるし、どんな後遺症が出るかもわからない。
しかし博士はどうしても実験がしたかった。博士は自分の好奇心と戦ったが、ある時ついに負けてしまった。
で、博士は秘密で助手に頼んで人を募集した。被験者には一千万円を支払うというのだ。何も知らない人間が金に目が眩んで応募してきた。だが、酔っ払いと体に疾患のある者は除外された。
応募者は博士によって選考され、真面目そうな男子大学生が選ばれた。彼は実験の結果どんな事が起ころうとも意義を唱えないと言う契約書にサインをし、実験に臨んだ。
博士はまず彼を一万年進化させた。しかし装置から出た彼は、ぽかーんとただ口をあけただけで何の変化もなかった。そこで博士は猿の例に習って一気に十万年進化させた。だが装置から出た学生に変化の兆候がない。助手も博士も人間はもうこれ以上ほとんど進化はしないのかもしれないと思った。
今が人間の進化の頂点だと考えざるを得なかった。
しかし、人の進化を信じる博士は納得がゆかず、彼をもう一度装置に入れ、一挙に百万年以上の進化を彼に強いた。
しかしそれでも彼に変化がなかった。博士もさすがに諦めた様子で、これ以上の実験は危険すぎるし、今回の実験はこれで終了となった。
博士は落胆したが被験者には一千万円を後日支払う事を約束した。
大学生は喜んで家に帰っていったが妙な事が起こった。その時から彼の足の指の間が痒くなったのだ。我慢できないほど痒いので彼は仕方なく病院に行く羽目になった。
病院に行くと医師が彼の足の指の間の皮を採取し、顕微鏡で覗いて驚愕した。
「こ、これは驚いた。なにか非常に小さな生物らしいものが沢山いますよ」
「な、なんですって、なんですか? それは」
「わかりません」
「電子顕微鏡で再検査します」
時間をかけて医師が調べ、検査結果が告げられる。
「驚きました。あなたの足の指の間に超ミクロ生物が生育しています。彼らは小さな都市をあなたの足の指の間に築いているのですよ」
「えっ! 都市ですって!?」
彼は仰天したが、さらに精密検査が進むと、その生物が水虫のDNAを受け継いでいる事がわかった。これを知った博士と科学者たちがそれを研究しだした。
やがてその生物が水虫の進化した高等生物であることが確かめられた。
あるとき彼は足の指が燃えるように熱くなったので、堪らず医師のところに駆け込むと医師は異常に目を輝かせてこう言った。
「これは大変だ! ついに彼らはあなたの足の指の間で核実験を始めましたよ!」
おしまい
※画像はO-DANからお借りしています
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長電話
「もしもし……。うん。それで……。えっ!うっそーっ。――やだーっ」
――その少女は部屋のソファの上で携帯で話していた。
クリッとした目をした好奇心旺盛そうな女子だ。
彼女は横になったまま何度も合図地を打って笑顔になったり、時折悲しそうな顔になったり、ちょっとふくれっ面になったりしている。
女友達との会話が楽しくてたまらないのだ。またまた彼女が大声で笑い出した。
「えっ! それマジで……。 信じらんねえ!」
今友達と別かれて帰ったばかりなのに、もう会話が盛り上がっている。
少女は立ち上がって茶箪笥からスナック菓子を取り出した。封を破ってポリポリ音をたてて口に放り込む。
「それで、あっそうか……。はははははっ!」
尽きる事が無い会話。そとは夕方からすっかり夜になっている。見てもいないテレビがついていてニュースを映している。ヴォリュームは絞ってあった。
尚も会話は続く……。そのうち夜が更け、音のないテレビが臨時ニュースを映し出していた。
――大きな文字で、隣国より日本に向け、核ミサイルが発射されたと表示される。
世界戦争の危機!! そしてアナウンサーの深刻な表情、アナウンサーの絶叫!
だが少女の会話は終わる様子を見せない。外はもう深夜だ。そのとき少女の部屋全体が青白い不思議な光の輪に包まれた。
突然暗闇に閃光が走る。核爆弾投下……。
凄まじい閃光と爆音。爆風が街を襲う……。
しかし少女はカーテンを閉めただけで、尚も会話に没頭する……。
「えっ、光った……。なにが、青白い光? いつ? うっそーっ……。うふふっ」
ミサイルが上空を飛び交っている。もの凄い数だ。地響きがする。地震のようだ。
朝が来ても会話は終わらない。眠そうな目でカーテンを開けると、ほとんどのビルが見当たらない。都会が消えうせ静寂だけが残った。
尚も、尚も会話が続く、止まらない会話。何度も夜が来て朝が来て、又夜が来て朝が来る。しかし彼女は会話に没頭する。
窓の外は完全に砂漠になり、生き物さえ見当たらない。
大気汚染。天変地異。大気は熱風に変わる。ついに全生物が絶滅、滅亡。
そして雨が降り、雨が降り続き、海水がマントルに逆流。
「なんか変? なにが……。 ところでさあ彼氏がねえ……」
新しい海の誕生。海底で有機物と無機物が合成して新たなる生命の誕生。
光合成生物誕生、オゾン層の構築。
超大陸の誕生。超大陸の分裂。バクテリア、藍藻類誕生。
――進化。繁殖。 ――進化。繁殖。そして生命の大爆発。
カンブリア紀、三葉虫出現。オルドビス紀、シルル紀、デボン紀、石灰紀、ベルム紀を経て中生代であるところの三畳紀。サンゴ、クラゲ、ゴカイ出現。
そしてジュラ紀に移行。魚が海を泳ぎ、魚が地上に上がる、両生類の誕生。
やがて恐竜が闊歩し始める。
「今、誰か覗いた。大きな目だったよ…? えっ、気のせい」
しかし尚も会話は続く。哺乳類の誕生、繁栄。恐竜の絶滅。霊長類の出現。
ヒト上科がテナガザル科とヒト科へ分岐。ゴリラ亜科とヒト亜科の分岐。チンパンジーと人類(ヒト族)の分岐。
猿が二本足で歩き出し、ホモ・ハビリスが石器の製作に当たる。
原始人が道具を使い、紆余曲折の果てに人類が文明を持つに至る。 縄文、弥生時代を経て、水田稲作の開始。
戦国の世を経由し、主権国家の成立、産業革命による資本主義の成立。そして加速度的は近代国家の確立。テクノロジーの飛躍的な進歩。
そして、ついに、携帯電話が出来上がった。
その時だ。何事もなかったかのように彼女の途方もない永い会話が終わる。
「じゃあね、またね。バイバイ!」
――ツーッ。
おしまい
※画像は「いらすとや」からお借りしています
小次郎の失敗
時は江戸時代。相模の国に宮本小次郎という、どこかで聞いたことがあるような無いような名の悪者がいた。
小次郎は盗人、追剥の類(たぐい)で行商人やら、町人やらから金を奪い取っていた。
しかし彼の顔を誰一人として見たものはなかった。なぜなら小次郎は先祖から伝授された透明になれる妙薬を密かに隠し持っているのだった。
元々小次郎の家系は忍者であったが太平の世が長く続くと見る間に落ちぶれ盗人に転落したのだ。
そんな訳で瓦版の絵師さえ小次郎の顔を想像で描くより仕方なかった。実際は中肉中背のどこにでもいるような男であったが、絵師の手にかかると凶悪でごつい男に変貌していた。
小次郎にとって道場破りなど簡単なことであった。どんなに腕の立つ流派の剣豪でも透明になった小次郎には勝てず、道場の看板と大枚な金子(きんす)を持ち逃げされてしまった。なにしろその妙薬は衣服はもちろん、刀までも透明にできるので小次郎は無敵といってもいいほどだった。
これには同心達も困り果て、腕のたつ目明しさえ小次郎との遭遇を内心恐れる始末だった。
あるとき小次郎は峠に地蔵の横で寝そべっていた。寝ていたのではない。峠に通りかかる者を待ち伏せしていたのだ。すると懐が膨らんだ男がゆっくりと峠に差し掛かった。
『しめた! かもだ!』
小次郎は心でこう叫んで透明になり、一気に男に切りかかった。
だが次の瞬間、小次郎の胴体は二つに裂けて宙に踊った。
――姿を消す妙薬も座頭市には、まったく通じないのであった。
おしまい
※画像はO-DANからお借りしています
スナイパー
高層ビルの屋上からターゲットに照準を合わせた俺は、何のためらいも感じないまま銃の引き金を引こうとしていた。
暗殺者は常に冷徹で無慈悲でなければならない。
己の私情など微塵たりとも交えてはならないし、自分自身が鋼鉄の精密機器にならなければならないのだ。
俺の頬にひんやりとした狙撃銃の感触が心地よい。銃は高精度オートマチック。この銃は火器の芸術品ともいえるだろう。スコープを覗き込む俺の眼はきっと鋭い鷹のような光を放っているのに違いない。
ターゲットはマフィアの大ボスのゴンドーだ。法で裁けない犯罪組織の首領である。
こいつが片付けば、けちな世の中もちょっとはましになるんじゃないのか。
おっと、俺にはそんな事は関係ない。正義を気取る気なんてこれっぽっちもない。
これは完全なビジネスであり報酬さえ手に入るのなら、俺は天使だって打ち殺してみせる。スコープの中にターゲットを正確にとらえた俺は無表情のまま引き金を引いた。
サイレンサーの鈍い振動が俺の米噛みに心地よく伝わってきた。
しかし次の瞬間俺は我が目を疑った。
ターゲットが身を逸らせたのだ。何とも信じられなかった。ターゲットは俺が引き金を引いたと同時のタイミングで床にこけたのだ。弾丸はわずか数ミリ奴を逸れその向こうにいた別の男の心臓を射抜いてしまったのだ。
しくじったのだ。俺はあまりのショックに銃を放り出し呆然と屋上に立ちすくんだ。この俺が、今までただの一度もターゲットを外さなかったこの俺が失敗したのだ。
ターゲットは一発で仕留めなければならない。銃を乱射して相手を仕留めるなど俺のプライドが許さないのだ。それは俺の美学に反する。
数日後、俺はクライアントの所にすっかり気落ちして訪れた。俺はクライアントに潔くあやまりこの仕事を引退する事を決めていた。
スナイパーは去る時も心得ていなければならない。未練を絶つのも男の美学なのだ。
裏通りのビルの一室。ドアを開けるとそこにクライアントが煙草をふかして俺を待ち受けていた。眼と眼が合い俺は表情も変えずに別れのセリフを切り出すタイミングをうかがった。冷たいスタンドの灯りが俺の横顔を照らす。
「いい訳はしないよ。どうやら俺は終わったようだ……」
だがクライアントはただじっと俺を見つめ、いきなり黄色い声を出した。
「ふふふふふっふ……。 君は凄い奴だ。まったく驚いた。さすがだな。私は最初君がしくじったのかと思ったよ。しかし君は奴が暗殺を事前に察知して替え玉をつくり、全く別の男に変装していたのを見破っていたんだ」
「……」
「――君こそプロ中のプロだ」
――最後に付け加えよう。常に暗殺者は強運に恵まれなければならない。俺はニヒルな薄笑いを浮かべゆっくり顎を撫でた。
おしまい
※画像はO-DANからお借りしています
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