発狂した宇宙人

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過ち

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 ――手術は困難を極めていた。難しい胃癌摘出手術だ。

 転移の箇所もあり看護師は何度も私の額の汗をハンカチで拭った。迅速に作業しなければならない。ひたすらに医師である私は作業をする。長い時間を要したがなんとか手術は無事に終了した。

 私はようやく安堵のため息をついた。成功したと思った。私の手はまるで数時間自分の意思を持ったかのように動き、この手術を成功させたのだ。

 終了と同時にどっと背中に疲労感が圧し掛かった。

 通常の世界が私に戻ってきたのだ――。

 

 手術室を出た私だったが、数歩も歩かないうちにふらっと目眩がした。背後からじわじわと得体の知れない魔物が忍び寄るようだった。

 それは脊髄に氷の柱を差し込まれたような感覚だった。

 私は患者の体内に鉗子(かんし)を忘れてしまっていたのだ。

 ――なんという恐ろしい過ちだろう。 

 

 一刻も早く患者の身体から鉗子を取り出さなけれならない。もし新聞沙汰にでもなったら私はおしまいだ。

 私は誰かに知られてはまずいと思った。私は少し間を置いた。そしてなにくわぬ顔で手術室に戻った。幸い誰もいない。ビニール管だらけの患者はまだ手術台にいた。

 

 私は大急ぎで患者の腹部の糸を抜き取った。まさぐるように鉗子を探す。しかし不可解な事が起こった。  

 鉗子が無いのだ。どこを探しても鉗子が見当たらないのだ。私は途方くれた。

 

 患者の顔を見て私の心臓は縮みあがった。絶壁から奈落の底に叩き落されたようだった。生きた心地すらしない。

 

 私は焦って手術室を間違えていたのだ。

 ――いつの間にか、まわりに看護師達の無言の顔があった。

 

                            

                おしまい。

 

 

                 ※画像はO-DANからお借りしています

 

 


過ち