恐ろしいDVD
怖いDVDがあるという。なんでも噂だと凄い動画で、それを観てショック死する者が続出しているらしい。恐ろしい残虐映像でも映っているのだろうか?
それは並みのホラーなどではなく恐怖の範疇を超越していて観たものは食事も喉を通らず、泣きながら餓死していくと言うのだ。呪いのビデオならぬ呪いのDVDなのだろうか?
よく訊けばその映画を上映禁止にしようとした審議官がそれを見て死んでしまったと言うのだ。国がそのDVDを取り締まろうと思っても誰もそれの実態がわからず、取り締まる事さえままならぬ現状だ。
挙句の果てに国はそのDVDが極めて危険らしいので、観ることも見せることも法で規制してしまった。
たしか俺の記憶だと都市伝説で『牛の首』と言うのがあり、その怪談をきいたものは三日もしないうちに死んでしまうという。でも俺は根も葉もないつくり話に違いないと分析している。みな死んでしまうのなら語る人間がいなくなるだろうし、おかしな矛盾に満ちているじゃないか。
だから常に冷静な俺はこのDVDの一件も実に馬鹿々々しい与太話だと思った。ちゃんちゃらおかしいし、まずあり得ない話だ。しかし見るなと言えば見たくなるのが人間の性(さが)である。それに俺は剛毅な気性だし現役バリバリの警察官だ。柔道は黒帯で体力にも並ならぬ自信がある。
俺はそのDVDがあるとき凄く観たくなっていた。少しだけ不安はあったが俺がそれを見て如何に馬鹿々々しい都市伝説であるか身をもって立証したくなったのだ。
あるとき俺は闇ルートで出回っているそのDVDをやくざ者から押収し、それをこっそり観る事に成功した。
――では内容を説明しようと思う。ざっとこんな映像だ。
まず真夜中の墓場の場面だ。カメラが墓地を舐めるように撮っている。そこでいきなり墓地から血だらけの手が出てきた。ちょっとびっくりしたがなんてことない。次はその手が伸び墓場から人間が出てきた。
丸い顔でどこかとぼけた男だ。変な顔だ。
『ひっひっひっひっひ、あっはっはっはっは』
この男の顔がなんだかおかしい。間の抜けたふくれっ面だ。
『あっはっはっはっは』
なぜか笑える。なんという馬鹿面だ。
『ひっひっひっひっひ、あーっはっはっはっは。こいつはまぬけだ』
本当に笑える。こいつ、なに考えてんだ! どこへ行くんだよ。おい!
『ひっひっひっひっひ、あーっはっはっはっは。おーほっほっほっほっほっほ』
こりゃたまらん。
『くっくっくっくっくっ、ひーっひっひっひっひ、あーっはっはっはっは。おーほっほっほっほっほっほ』
どうしたのだろう? 涙が出て笑いが止まらない。おかしい!
『ひっひっひっひっひ、あーっはっはっはっは。こいつは馬鹿な話だぞ、誰か医者を呼んでけれないか! このままじゃ俺は笑い死にする! おーほっほっほっほっほっほ』
俺は記憶の片隅にたしかDVDを見て、笑い死んだ男もいた事をぼんやりと思いだした……。
おしまい